製造業の労働災害|はさまれ・巻き込まれを防ぐ3つの仕組み
製造業の労働災害において、「はさまれ・巻き込まれ」は長年にわたって主要な死傷原因であり続けている。厚生労働省の令和6年(2024年)確定値では、製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数は4,692人に上った。前年比で4.4%の減少とはいえ、製造業全体の死傷者数26,676人のうち約17.6%を占める最大の事故型だ。プレス機、コンベヤ、工作機械——これらが一瞬の不注意と設備の不具合が重なったとき、後遺障害や死亡につながる重篤な事故に直結する。本記事では、事故の実態を統計で確認しつつ、現場で今日から使える防止策を3つの柱に整理して解説する。
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製造業労災の発生実態
製造業における労働災害は、全産業の中でも依然として深刻な水準にある。
厚生労働省の令和6年確定値(2025年5月30日公表)によれば、製造業の休業4日以上の死傷者数は26,676人。全産業の死傷者数150,914人(新型コロナウイルス感染症を除く)に対し、製造業はその約17.7%を占めている。死亡者数は142人で、前年比4人増(2.9%増)という残念な結果だった。
| 指標 | 製造業 | 全産業 | 製造業比率 |
|---|---|---|---|
| 死亡者数(令和6年確定) | 142人 | 747人 | 19.0% |
| 死傷者数(休業4日以上) | 26,676人 | 150,914人 | 17.7% |
| 機械による「はさまれ・巻き込まれ」死傷者 | 4,692人 | — | 製造業内17.6% |
出典:厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況について(確定)」(令和7年5月30日)
製造業、建設業、陸上貨物運送事業の3業種が全死亡者数の6割強を占めるという傾向は10年以上変わっていない。製造業は歴史的にも業種別死傷者数でトップクラスに位置し続けており、「機械がある現場」固有のリスクが色濃く残っている。
第14次労働災害防止計画(令和5〜9年度)では、製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を令和9年までに令和4年比で5%以上減少させることを数値目標として掲げている。現場での取り組みが着実に問われている状況だ。
事故型別ランキング|はさまれ・巻き込まれが圧倒的に多い理由
「はさまれ・巻き込まれ」とは、機械の可動部分(プレス金型・ローラー・ギア・コンベヤベルトの端部など)と固定部分の間、またはローラー同士の間に身体の一部が挟まれる事故をいう。
製造業における事故型別の死傷者数(令和6年)では、「はさまれ・巻き込まれ」が4,692人と最多だ。2位以下の「転倒」「切れ・こすれ」を大幅に引き離している。全産業の死亡者数を事故型別に見ると、「はさまれ・巻き込まれ」は110人(全死亡者の14.7%)で、墜落・転落(188人)・道路交通事故(123人)に次ぐ3位に位置する。
これほど「はさまれ・巻き込まれ」が多い背景には、製造業特有の作業環境がある。
- 機械の可動部との近接作業が避けられない — 材料のセット・取り出しを手作業で行う工程では、どうしても手が金型の近くに入る
- 繰り返し作業によるマンネリ化 — 同じ動作の反復で注意が散漫になり、指が金型内に残ったまま起動するケースが多い
- 設備の経年劣化 — 安全装置のセンサー劣化や囲いの破損放置が、「装置があるから大丈夫」という誤った安心感を生む
- 段取り替え・保全作業の例外処理 — 「ちょっとだけ」の調整作業で安全装置を外した状態のまま運転してしまう
全産業の事故を型別に分析した場合も、「はさまれ・巻き込まれ」は製造業で特に集中して発生している。これは「製造業で使われる機械の種類と数」の多さが直接要因だ。
はさまれ・巻き込まれ防止の3階層アプローチ
「はさまれ・巻き込まれ」防止の体系的なアプローチとして、ISO 12100(機械の安全性—設計のための一般原則)では危険源除去の優先順位を3段階で定めている。現場では「本質安全化→安全装置→管理的対策」の順に取り組むことが求められる。
第1層:本質安全化(危険な機械・工程そのものをなくす)
最も効果的な対策は、そもそも「挟まれる構造」を排除することだ。
- 自動化・ロボット化 — 人の手が入る必要がある工程を産業用ロボットに置き換える
- 金型設計の見直し — 取り出し装置(プッシャー・エアブロー)を設けることで、手を金型に差し込まなくてよい構造にする
- 2ショット金型・トランスファー — 材料搬送を機械側に持たせる
本質安全化は設備投資が必要になるが、安全装置が正常に機能しなかった場合でも事故が起きないため、最も確実な対策といえる。
第2層:安全装置(機械的・電気的に危険域への侵入を防ぐ)
本質安全化が難しい場合、安全装置で危険を封じ込める。安全装置の種類と効果については次のセクションで詳述する。
第3層:管理的対策(作業手順・教育・点検で人的ミスを減らす)
安全装置を補完する形で、作業手順書の整備・KY活動・定期点検・入場管理を組み合わせる。ただし、管理的対策だけでは限界がある。「注意しろ」という指導は事故を防がない——これが安全管理の大前提だ。
プレス機・成形機の安全装置|3種類の仕組みと選び方
プレス機械による「はさまれ・巻き込まれ」は、手の切断や指の欠損といった重篤な後遺障害を残す事故が多い。労働安全衛生規則第131条では、事業者に対してプレス機械に安全囲い・安全装置の設置を義務付けている。
プレス機械に取り付けられる安全装置は、「プレス機械又はシャーの安全装置構造規格」(厚生労働省告示)で次のように区分される。
両手操作式安全装置(両手押しボタン)
起動操作を「両手同時押し」にすることで、片手がスライド下にある状態では機械が起動しない仕組みだ。
- 特徴 — 構造がシンプルで、既存機への追加取り付けが比較的容易
- 適用条件 — 一人作業に限る(複数人作業では全員分のインターロックが必要)
- 法令根拠 — 安全装置構造規格・両手操作式
シングルストローク(1回の操作で1回だけ作動)の機械では特に効果的だ。ただし、連続プレスの場合、サイクル途中で手を離せる構造では意味をなさないため、機械の特性に合わせた選定が必要だ。
光線式安全装置(AOPD/ライトカーテン)
危険域入口に不可視光線のカーテンを張り、手や指が光線を遮ったときに機械を緊急停止させる装置だ。
- 特徴 — 作業の自由度が高く、素手でもグローブ着用でも対応できる
- 分解能 — 14mm以下のものは「指検知」対応(IEC 61496準拠)
- 法令根拠 — プレス機械又はシャーの安全装置構造規格・光線式安全装置
光線式安全装置の最大の弱点は「反応距離(安全距離)の設計ミス」だ。機械が停止するまでの時間とスライドの動作速度を考慮した安全距離を確保しないと、光線を遮った後もスライドが下降して挟まれる事故が起きる。安全距離の計算はISO 13855またはJIS B 9715に従って実施すること。
インターロックガード式安全装置
物理的な囲い(ガード)を閉めないとスライドが動かない構造だ。
- 特徴 — 最も確実な防護だが、段取り替え時の開閉が生産性に影響する
- 運用上の注意 — インターロックをテープ固定などで無効化する「チート」が横行しやすい。定期点検で必ず確認する
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搬送・コンベヤ事故の対策|非常停止・囲い・保全作業の鉄則
コンベヤによる労働災害は「静かに流れているから安全」という誤認が生む事故だ。ベルトコンベヤのローラー部(ヘッド・テール・キャリア)への巻き込まれは、衣服・手袋・頭髪が接触した瞬間に重篤な状態になる。
非常停止装置の設置と点検
労働安全衛生規則第151条の78では、コンベヤーに非常停止装置の設置を事業者に義務付けている。
- ワイヤー式緊急停止 — コンベヤ全長に沿ってロープを張り、どこからでも引っ張れば即停止する
- プッシュボタン式 — 作業者の手が届く場所に等間隔で設置
- 設置間隔の目安 — 単独での到達に3秒以上かかる距離には中間停止ボタンを設ける
非常停止装置は設置するだけでなく、毎日の始業前点検が安衛則第151条の79で義務付けられている。点検対象は「原動機・プーリーの機能、非常停止装置の機能、回転軸・歯車・プーリー等の覆いの異常」だ。「動いているから大丈夫」ではなく、停止機能を確認するのが点検の本質だ。
囲い・覆いの設置
ローラーや歯車といった巻き込み危険部には、安衛則第101条に基づく覆い・囲いの設置が必要だ。
- ローラーの巻き込み点(引込み点)には必ずガードを設置する
- 清掃・注油箇所は、停止・ロックアウト後にしか接触できない構造にする
- 囲いに設けた点検口には、開扉と機械停止をインターロックする
「運転中の保守作業」禁止の徹底
コンベヤ事故の重大な原因の一つが「流れたままの状態でベルトに触れる」保全作業だ。詰まりを取り除くため、あるいは異音の場所を確認するために運転中のコンベヤに手を出す——これが死亡・重傷事故に直結する。
ロックアウト・タグアウト(LOTO)の運用が実務上の最重要手順だ。
- コンベヤの電源を切断し、電源盤の開閉器を「ロック」する
- 当該コンベヤには作業中であることを示す「タグ」を掛ける
- 誰かが誤って投入できないことを確認してから作業に入る
「ちょっと手を入れるだけ」「すぐ終わる」という判断が事故を生む。LOTO手順の省略は絶対禁止——これを現場のルールとして書面化・周知しておくことが管理者の責任だ。
切創・切断災害の対策|グラインダー・刃物・保護具
「はさまれ・巻き込まれ」と並んで製造現場で多い事故型が「切れ・こすれ」だ。グラインダー(ディスクグラインダー)、丸ノコ、タレットパンチなどの刃物工具は、適切な管理なしには重大な切創・切断事故を引き起こす。
グラインダー事故の実態と対策
砥石の破裂・砥石の接触による切創は、グラインダー事故の二大形態だ。
法令上のポイント(安衛則第117〜125条)
- 砥石は最高使用周速度を確認し、機械の回転数と整合させること
- 使用前に「音響検査(打音試験)」を行い、ひびの入った砥石は絶対に使わない
- 側面研削禁止砥石(平形砥石など)を側面で使用しない
- ガード(防護カバー)を正規の位置に取り付け、取り外しての作業を禁止する
保護具の徹底
- フェイスシールドまたはゴーグルの着用(安全眼鏡だけでは不十分な場合が多い)
- 革手袋の着用(布手袋は砥石への巻き込みリスクがある)
- グラインダーは砥石面を自分の体から外側に向けて操作する
刃物・打ち抜き工具の安全管理
金属加工現場のポンチ・タレットパンチプレス・NC旋盤でも切創災害は多発する。
- ポカヨケ設計 — 工具の刃先を作業者側に向けたセットが物理的にできない治具の設計
- 刃物台への近づき防止 — NC旋盤のチャック・刃物台は、扉が開いているときは自動停止(インターロック)
- 切粉の処理 — 素手で切粉を取り除くことを禁止し、専用の除去工具(フック・ブラシ)を用意する
耐切創手袋の正しい選び方
EN 388規格(欧州)またはJIS T 8054(国内)に基づく耐切創レベルを確認して選ぶ。グラインダーなどの回転工具を使う際は、手袋の巻き込みを防ぐため「着用禁止」とする場合もある。作業内容ごとに「着用すべき保護具」と「逆に危険な保護具」を明確にした作業手順書を作成しておくことが現場の管理者に求められる。
KY活動と再発防止|教育を「形式」から「実践」に変える方法
設備的対策だけでは事故はゼロにならない。機械は想定外の使われ方をされるし、手順書は現場の実態からズレていく。KY活動(危険予知活動)と再発防止の仕組みを組み合わせることで、設備対策の死角を埋められる。
KY活動の4ステップと「はさまれ」への応用
KY活動の基本は「4ラウンド法」だ。
| ラウンド | 内容 | 製造現場での問い |
|---|---|---|
| 1R | 現状はどんな危険が潜んでいるか | この工程でどこに「挟まれ」リスクがあるか |
| 2R | これが重点危険だ | 最も重大な「はさまれ」ポイントはどこか |
| 3R | あなたならどうする | どんな対策を取るか |
| 4R | 私たちはこうする | 行動目標を決める |
「はさまれ・巻き込まれ」に特化したKYのポイントは、危険が見えにくい箇所を意図的にピックアップすることだ。カバーの中のギア、コンベヤの下のローラー、型内の残材——こうした「見えない危険」を写真やイラストで見える化した作業前KYシートを用意することで、毎回同じ箇所を確認できる。
ヒヤリハットを「記録するだけ」にしない
ヒヤリハット報告が集まっても、そのまま紙に綴じて終わりでは意味がない。
4M分析による原因の深掘り
報告されたヒヤリハットを4M(Man:人、Machine:機械、Material:材料・物、Method:方法)に分類すると、設備起因なのか手順起因なのかが明確になる。
- Man — 疲労・熟練度不足・思い込みなどの人的要因
- Machine — 安全装置の劣化・センサーのズレ・囲いの破損
- Material — 原材料の寸法ばらつきによる手直し作業の発生
- Method — 正規の取り出し手順が非効率で作業者が省略している
4M分類で「Machine」「Method」に偏っていれば、設備改善や手順の見直しが最優先課題だと分かる。「Man」ばかりに原因を求める分析は再発防止につながらない。
教育の継続性をどう担保するか
安全教育を「年1回の座学」で終わらせると、時間が経つにつれて形骸化する。
継続教育の実践例
- 月次安全ミーティング — その月に発生したヒヤリハットを全員で共有。「自分の職場でも起きうるか」を議論する
- OJTでの反復確認 — 新人・配置転換者に対して機械ごとの安全操作を実機で確認する。チェックリストに記録して管理者がサイン
- 現場張り出し — 最新のヒヤリハット内容を機械の横に貼る。「先週あの機械でこんな事例があった」を現物で見せる
教育効果を最大化するには、報告→分析→フィードバック→再確認のサイクルを短い周期で回すことが重要だ。サイクルが1年単位では、事故が起きてからしか改善できない。
よくある質問
Q. はさまれ・巻き込まれ事故はなぜ製造業で特に多いのか?
製造業では、プレス機・コンベヤ・旋盤・射出成形機など可動部を持つ機械を日常的に操作するため、身体と機械可動部が接近する場面が構造的に多い。繰り返し作業によるマンネリ化と、安全装置を外した状態での段取り替え作業が事故を引き起こすケースが大半を占める。
Q. 安全装置を取り付けたのに事故が起きた場合、どこに問題があるのか?
主な原因は3つだ。①安全距離の設計ミス(光線式では停止距離を考慮した設置位置の誤り)、②センサー劣化の放置(定期点検で機能確認を怠ると無効化状態に気づかない)、③作業者による意図的な無効化(生産効率優先でカバーを外す・インターロックをテープ固定する)。安全装置は定期点検と無効化禁止の教育がセットで初めて機能する。
Q. コンベヤの「ロックアウト・タグアウト」を現場に定着させるコツは?
書面での手順書だけでなく、「物理的にロック作業をしないと保全作業に入れない仕組み」にすることが重要だ。鍵の保管場所を決め、当該担当者しか鍵を持てないようにする。「ちょっとだけ手を入れる」といった口頭文化を断つには、ルールを守ることのコスト(手間)より守らないことのリスクが大きいと全員が納得できるよう、過去の事故事例を交えた教育が有効だ。
Q. ヒヤリハットの報告件数が増えない。どうすれば改善できるか?
報告が少ない原因の多くは「報告すると誰が何をしたかが特定される」「報告しても何も変わらなかった」という経験だ。匿名で報告できるルートを設けること、そして報告に対するフィードバック(こんな改善をした)を可視化することが解決策になる。QRコードを機械の横に貼り、スマホから即時に匿名報告できる仕組みを導入した現場では、報告件数が大幅に増加した事例が報告されている。
まとめ
製造業における「はさまれ・巻き込まれ」対策は、単一の方法では完結しない。令和6年確定値でも機械による死傷者4,692人という数字が示すように、設備だけでも、教育だけでも、管理だけでも不十分だ。
現場で今すぐ確認すべき3点
-
安全装置は機能しているか — 光線式・インターロック・両手操作式が正常に動作するか、今日の始業前点検で確認する。点検記録を必ず残す。
-
LOTO手順は書面化・周知されているか — コンベヤや工作機械の保全作業でロックアウト・タグアウトが現場に根付いているか。「知っている」と「実際にやっている」は別物だ。
-
ヒヤリハットは匿名で報告できるか — 「あと少しで挟まれた」という情報は作業者が一番早く持っている。その声を拾う仕組みがなければ、重大事故の前兆を見逃し続けることになる。
第14次労働災害防止計画の目標達成に向けて、製造業の安全水準を底上げするには、設備改善と報告文化の醸成の両輪が欠かせない。
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