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プレス作業の安全|挟まれ防止と安全装置の選定・実務ガイド

カテゴリ: 作業別安全 #プレス機械#動力プレス#安全装置#光線式安全装置#作業主任者#特定自主検査

製造業における「はさまれ・巻き込まれ」災害は、令和6年(2024年)確定値で4,692人(出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況」)。そのなかでも動力プレスは、一瞬の不注意が指・手の切断という重篤な後遺障害に直結する機械だ。法令上の安全装置義務は整備されているにもかかわらず、事故は依然として後を絶たない。本記事では安衛則第131条を出発点に、安全装置の種類と選定基準、特定自主検査、作業主任者の役割、金型交換時の管理まで、工場長・作業責任者が押さえるべき実務ポイントを整理する。

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プレス事故の発生実態

動力プレス作業による労働災害は、「はさまれ・巻き込まれ」事故の典型事例として厚生労働省の労働災害事例集に多数登録されている。

製造業全体の「はさまれ・巻き込まれ」死傷者数は令和6年確定値で4,692人と、全事故類型のなかで最多を占める(出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況」)。そのうちプレス機械を起因とするものの比率は高く、第14次労働災害防止計画(令和5〜9年度)では機械による「はさまれ・巻き込まれ」を令和9年までに令和4年比5%以上減少させる数値目標が設定されている。

事故が発生する典型的な場面は次のとおりだ。

いずれも「一瞬の判断ミス」ではなく、安全装置の選定不適、手順書の形骸化、教育不足という構造的問題が背景にある。

動力プレスの安全装置区分

動力プレスに設ける安全装置の種類と特徴を理解することは、適切な装置選定の第一歩だ。安全装置とは、スライドが危険区域(危険限界)に達する前に機械を停止させるか、または危険区域内に身体が入れない構造にするための保護手段である。

労働安全衛生規則(安衛則)と「プレス機械又はシャーの安全装置構造規格」(厚生労働省告示)で定められた主な安全装置の種類は以下のとおりだ。

装置の種類作動原理特徴
光線式安全装置危険区域への侵入を光で検知 → 機械停止作業性が高い。高速プレスに適す
両手操作式安全装置(両手押しボタン式)両手で同時に操作しないとスライドが動かない構造がシンプル。片手バイパス対策が重要
手引き式安全装置スライド降下と連動して手を引き出す古い機種に多い。引き出し量の確認が必要
手払い式安全装置スライド降下時にアームが手を払う改正規格により新規設置は原則禁止
固定式ガード(安全囲い)物理的に危険区域への接近を遮断最も確実。加工部のアクセスが制限される
インターロックガード式ガードを開けると機械が停止するガード開閉のたびに停止

手払い式安全装置については、平成27年9月30日付け基発第930011号「プレス機械の安全装置管理指針の改正について」により、旧来の手払い式は安全性の観点から廃止・代替が求められている。既設機器の更新計画を確認することが必要だ。

光線式・両手押しボタン式の選定

光線式安全装置と両手押しボタン式(両手操作式)安全装置は、実際の現場で最も広く使われている2種類だ。どちらを選ぶかは機械の特性と作業形態に依存する。

光線式安全装置

光線式安全装置とは、危険限界の周囲に投光器と受光器を配置し、光軸の遮光を検知した際にプレスを緊急停止させる装置である。

選定の目安

注意点

両手押しボタン式安全装置

両手押しボタン式安全装置とは、左右の操作ボタンを0.5秒以内に同時に押し続けることでのみスライドが動作する装置であり、片手での操作を物理的に不可能にする仕組みだ。

「プレス機械又はシャーの安全装置構造規格」改正(平成23年2月18日基発第218003号)では、両ボタンの操作時間差を0.5秒以内と明記している。

選定の目安

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動力プレス特定自主検査

動力プレスの特定自主検査とは、労働安全衛生法第45条に基づき、一定の資格を持つ者が1年以内ごとに1回実施する定期自主検査のうち、法令で特に定めた検査項目を含む義務的な点検制度である。

実施頻度と記録保存

検査の実施者要件

特定自主検査は、次のいずれかが実施しなければならない。

  1. 事業内検査者:厚生労働省令で定める資格を有する事業内の労働者。「動力プレス機械特定自主検査事業内検査者研修講座」(中央労働災害防止協会等が実施)を修了し、資格を取得した者が該当する
  2. 登録検査業者:都道府県労働局長の登録を受けた検査業者

「誰でもやればよい」という認識は法令違反になる。社内での担当者確保か、登録業者への委託かを明確にしておく必要がある。

主な検査項目

動力プレスの特定自主検査では、以下の項目が検査対象となる。

月例点検との関係

特定自主検査は年1回の「大きな検査」だが、安衛則第135条では月1回以上の定期自主検査も別途義務付けられている。日常点検・月例点検・年次特定自主検査という3段階の点検体制を整備することが現場の基本だ。

プレス機械作業主任者の役割

プレス機械作業主任者とは、労働安全衛生法施行令第6条第7号に基づき、動力により駆動されるプレス機械を5台以上有する事業場でプレス作業を行う場合に選任が義務付けられる作業主任者(国家資格)のことである。

選任要件

事業場要件:動力プレス5台以上の事業場でのプレス作業

資格要件:プレス機械作業主任者技能講習を修了した者。技能講習の受講には次のいずれかの要件を満たす必要がある。

なお、プレス台数が5台未満の事業場でも、作業主任者に準ずる役割の担当者を設定して安全管理を組織的に行うことが推奨される。

作業主任者の具体的な職務

労働安全衛生規則第134条では、プレス機械作業主任者の職務として次の事項が規定されている。

  1. 作業を直接指揮すること
  2. 安全装置の機能を点検すること
  3. 安全装置を取り外したり、その機能を失わせるときは当該安全装置に代わる措置を取ること
  4. 不安全な状態を発見したとき、直ちに必要な措置を取ること

1日の具体的な動き(例)

作業主任者を置けばよいというわけではない

よくある誤解として「作業主任者さえ選任すれば安全管理は完結する」というものがある。実際には、作業主任者は日常の作業監視・点検を担う現場の要であるが、安全装置の設置・維持管理は事業者の義務であり、特定自主検査の実施義務も事業者にある。作業主任者の「直接指揮」は、設備的安全対策を前提にして初めて機能する。

金型交換時の安全

金型交換作業は、プレス機械作業のなかで特に事故リスクが高い工程だ。機械内部に上半身が入る必要があり、しかも「ちょっとした調整」と感じて手順を省略しやすい。

金型交換時の3大リスク

  1. 意図しない起動によるスライド降下:電源を落としていない状態で作業中に誤って起動ペダルを踏む、または電気系統のノイズで起動する
  2. スライドの自重降下:油圧・空圧の失圧によってスライドが落下する
  3. 金型落下・転倒:重量のある金型を人力で扱う際の挟まれ・転倒

安全プラグとエネルギー遮断

安全プラグとは、スライドを作動させる電気回路に設けられた抜き差し式の遮断装置であり、金型取付・取外し・調整時に電気回路を開(OFF)にするためのものだ。

金型交換時の安全手順の基本は次のとおりだ。

  1. スライドを下死点(または安全な中間停止位置)で停止させる
  2. 安全プラグを抜いて作業担当者が持つ(「1人1プラグ」の原則)
  3. スライドが自重降下しないよう安全ブロック(金型サポートブロック)を挿入する
  4. 金型を固定しているボルトを外し、金型を交換する
  5. 新しい金型を固定後、安全ブロックを外す
  6. 安全プラグを差し込み、試運転で動作確認をする

1人1プラグの原則が重要な理由がある。複数の作業者が金型交換に関わる場合、「誰かが安全を確認しているはずだ」という思い込みから、プラグが差し込まれたまま作業が始まる事故が起きやすい。担当者がプラグを自分のポケットに入れて持つことで、「自分が作業中であること」を機械側に物理的に示す。

金型交換作業者への特別教育

安衛則第36条では、危険・有害業務に就く労働者への特別教育を事業者に義務付けており、金型等の取付け・取外し・調整の業務もその対象となる(安衛則第36条第1号)。新たな作業者が金型交換を担当する場合は、特別教育の修了を確認してから従事させることが必要だ。

教育記録と日常点検

安全教育の記録義務

安衛則第38条では、特別教育を行った場合にその記録を3年間保存することを義務付けている。記録すべき項目は次のとおりだ。

「やった気がする」では法令上の義務を果たしたことにならない。教育記録はチェックシートや台帳で一元管理し、保存期限と合わせて管理することが求められる。

日常点検チェックリストの整備

安衛則第135条の月例点検に加えて、毎日の始業前点検を習慣化することが事故防止の現実的な手段だ。

始業前日常点検の主な項目

□ クラッチ・ブレーキの作動:空打ちで異音・振動がないか
□ 安全装置の機能:光線式は遮光検知でスライドが止まるか/両手式は片手操作で動作しないか
□ 非常停止ボタンの動作:押下で確実に停止するか
□ 安全プラグの有無・状態:変形・接触不良がないか
□ 安全ブロックの収納場所:所定位置にあるか
□ 油圧・空圧の圧力:規定値の範囲内か
□ 金型の取付け状態:ボルト緩みがないか
□ 足踏みペダルのカバー:取り外し防止カバーが取り付けられているか

記録の活用と傾向管理

点検記録は「書けばよい」ではなく、傾向を読み取ることに価値がある。例えば、「毎週月曜日に空打ちで異音が出る」というパターンがあれば、週末の停止中に何らかの変化が起きている可能性がある。月次で点検記録を集約し、繰り返し指摘される項目を設備改善や作業手順見直しにつなげることが求められる。

また、日常点検で発見した不具合の報告ルートを明確にしておくことも重要だ。作業者が「この程度は大丈夫だろう」と自己判断して上長に報告しないケースが、後の重大事故の前兆になることがある。匿名での報告手段を確保しておくことで、報告のハードルを下げる工夫も有効だ。

よくある質問

Q. 動力プレスが4台の工場では作業主任者の選任は不要か?

労働安全衛生法施行令第6条第7号により、作業主任者の選任が義務付けられるのは「動力プレス5台以上の事業場」でのプレス作業に限られる。4台以下の場合は法的選任義務はないが、安全装置の点検義務や特定自主検査の実施義務は台数に関係なく適用される。4台以下であっても、作業主任者に準じた役割を担う担当者を明確に定めておくことが実務上望ましい。

Q. 光線式安全装置を取り付ければ両手操作式は不要か?

光線式と両手操作式は代替関係にある。安衛則第131条第2項では、作業の性質上、安全囲い等による措置が困難な場合に安全装置を取り付けることを規定しており、いずれか一方が適切に機能していれば条文上の要件は満たす。ただし、安全装置の種類と機械の特性(ストローク数、クラッチ形式)の適合性を必ず確認すること。組合せの場合は双方の安全距離計算を行う。

Q. 特定自主検査は毎年どの時期に実施すべきか?

法令上は「1年以内ごとに1回」であり、実施月の指定はない。ただし、前回の検査実施日から1年以内に次回検査を完了させる必要がある。検査記録には実施日・検査者の氏名・検査結果を記載し、3年間保存する。検査の間隔が1年を超えた場合、直ちに労働基準監督署の指導対象になりうる。

Q. プレス機の金型交換を未経験者が行う場合、どんな教育が必要か?

安衛則第36条第1号に基づく特別教育が必要だ。特別教育の科目は「プレス機械の種類・構造・取扱い」「金型の取付け・取外し方法」「異常時の措置」「関係法令」等で構成される。教育を行った記録は3年間保存義務がある。特別教育を修了していない作業者をプレス金型交換に従事させることは法令違反となる。

まとめ

プレス作業の安全管理で必ず押さえるべき3点を再確認する。

  1. 安衛則第131条を起点に安全装置を整備する — まず安全囲い等による物理的隔離が原則。困難な場合に光線式・両手操作式等の安全装置を選定する。手払い式は改正規格で原則廃止。安全距離の計算を怠らないこと。

  2. 検査・選任・教育の記録を3年保存する — 年1回の特定自主検査、月1回の定期自主検査、特別教育の記録はいずれも3年間の保存義務がある。「やった」では不十分で「記録がある」が法令遵守の証拠になる。

  3. 金型交換時は1人1プラグ+安全ブロックを徹底する — 最も事故が起きやすいのが金型交換・調整時だ。安全プラグを担当者が携帯し、安全ブロックを挿入してから作業に入る手順を作業標準書に明記し、逸脱を許さない現場管理が求められる。

プレス事故の多くは、安全装置が存在しながらも「外された」「機能確認されていなかった」という状況で起きる。設備的安全対策と日常の確認行動の両輪が、挟まれ災害をゼロに近づける唯一の道だ。

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