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熱中症を防ぐ暑熱環境作業の安全|WBGT測定と作業管理の実務

カテゴリ: 作業別安全 #熱中症#WBGT#暑熱環境#屋外作業#労働安全衛生規則#夏季対策

毎年、夏が来るたびに「今年こそ対策を整備しよう」と思いながら、結局、社内基準が曖昧なまま猛暑日を迎えていないだろうか。「水を飲め」「休憩を取れ」という口頭指示は、法的にも実務的にも対策とは呼べない。2025年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、熱中症対策は義務の中身が大きく変わった。本記事では、WBGT値ごとの作業管理基準から応急処置、デジタル管理まで、現場監督・安全管理者がすぐに使える形で整理する。

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職場熱中症の発生実態——数字が示す深刻さ

職場における熱中症は、「気をつければ防げる」という話ではなく、毎年一定数の死者が出る深刻な労働災害である。

厚生労働省が公表した令和7年(2025年)速報値(令和7年12月末時点)によると、職場での熱中症による死傷者数は1,681人に達し、統計を開始した2005年以降で最多を記録した。うち死亡者数は15人。確定値ベースで見ると、令和6年(2024年)は死傷者1,257人・死亡31人であり、直近数年で増加傾向が続いている(出典:厚生労働省「令和6年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」)。

業種別では、建設業と製造業が死傷者数の約4割を占め、死亡者数では建設業が常に上位に入る。2025年速報値でも建設業の死傷者は278人と最多水準で、死亡15人のうち建設業が5人を占めた。

年度死傷者数死亡者数建設業死亡
令和5年(2023年)確定1,106人30人
令和6年(2024年)確定1,257人31人10人
令和7年(2025年)速報1,681人15人5人

(出典:厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」各年度版)

数字のうえでは「2025年速報の死亡者数が減った」ように見えるが、速報は年度途中の集計であり、確定値との差が大きく出やすい。死傷者数が過去最多を更新している事実が示すのは、軽症から中等症の発生が急増しているということだ。「死なないまでも倒れる」現場が増えている。

WBGTとは——暑さ指数の定義と測定方法

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)とは、気温・湿度・日射(輻射熱)・風速の4要素を統合した暑熱環境の評価指標であり、単純な気温計では表せない「体感の暑さ」を数値化したものである。1954年に米国で提案され、現在は国際標準(ISO 7933・JIS Z 8504)として幅広い産業で採用されている。

気温だけでは見えないリスクがある。35℃の快晴よりも30℃の高湿度環境のほうが熱中症リスクが高いことは珍しくない。WBGTはそのギャップを補う指標だ。

WBGT計算式(簡易版)

屋外(日射あり)と屋内(日射なし)で算出式が異なる。

実務では「WBGT測定器」(黒球付きのポータブル機器)を現場に置けば自動算出される。環境省の「熱中症予防情報サイト」では、地点別のWBGT予測値も無料公開されており、屋外現場では前日の予報確認が有効だ。

測定の実務ポイント

測定場所は「作業者が実際に作業する高さ・場所」に設置するのが原則だ。日陰と直射日光下では測定値が大きく異なるため、屋外作業の場合は日射条件に近い場所で測定する。測定頻度は1時間に1回以上が望ましく、気温の急上昇が予想される午前11時〜午後3時の間は頻度を上げることが推奨されている。

法令・指針——安衛則第606条と2025年改正の要点

安衛則第606条と関連規定

労働安全衛生規則第606条は、事業者に対して「暑熱・寒冷または多湿の屋内作業場で有害のおそれがあるものについては、温湿度調節の措置を講じなければならない」と定める根拠規定である。屋外作業については、同規則の他条項や「職場における熱中症の予防に関するガイドライン」(厚生労働省)が補完する形で対策義務を課している。また、安衛則第617条では事業者に飲料水・塩の提供義務が課されている。

2025年6月施行——改正安衛則の新義務

令和7年(2025年)6月1日、改正労働安全衛生規則が施行された。新たに設けられた安衛則第612条の2が実務上の核心だ。

義務化された内容を整理する。

  1. 体制整備の義務:熱中症のおそれがある労働者を早期発見し、社内で報告する体制を整えること
  2. 手順の作成と周知:応急処置(作業離脱・身体冷却・医師受診)の手順を事前に作成し、関係作業者に周知すること
  3. 緊急連絡網の整備:救急搬送先の連絡先・所在地等をあらかじめ定め、現場で即座に対応できる状態にすること

対象となる作業は「WBGT値28以上、または気温31℃以上の環境で連続1時間以上または1日4時間以上の作業」とされている。違反した場合の罰則は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金だ。

STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(令和8年)

厚生労働省は毎年5月1日〜9月30日(うち7月を集中実施期間)に「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しており、令和8年(2026年)も同キャンペーンが展開中だ。令和8年3月には「職場における熱中症予防ガイドライン」(24ページ)も改訂・公開された。キャンペーン期間中は労働局・監督署による監督・指導も強化される。

WBGT値別の作業管理基準——25/28/31℃のしきい値で動く

WBGT値ごとの作業管理基準は、厚生労働省「職場における熱中症の予防に関するガイドライン」と、日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針」を踏まえて整理されている。職場での実務基準としては以下の区分が広く使われている。

WBGTの目安リスクレベル現場での対応
25℃未満注意水分補給の徹底・体調確認
25〜28℃未満警戒休憩頻度を増やす・作業強度を下げる
28〜31℃未満厳重警戒激しい作業は原則中断・クーリング必須
31℃以上危険屋外での激しい作業は中止検討

(参考:環境省「熱中症環境保健マニュアル」・厚生労働省ガイドライン)

「熱に順化しているか」でしきい値が変わる

重要な注意点がある。上記の数値は熱に順化した健康な成年男性を基準としている。「順化」とは、暑熱環境に徐々に慣らすプロセスのことで、最低7〜14日程度かかる。季節の変わり目(5〜6月)や、病欠明け・新規入場者は順化不足の状態にあることが多く、同じWBGT値でもリスクが高い。

この時期の管理強化が、統計上も熱中症発生が多い6月・7月の対策として特に重要だ。

作業強度との組み合わせ管理

WBGT基準値は作業強度によっても変わる。事務系の軽作業(METS 1.5程度)なら28〜30℃まで許容されるが、ショベルや重量物を伴う強作業(METS 5以上)では23〜26℃でも基準値を超えることがある。現場での「見た目の温度」だけで管理すると、重作業の作業者に対して過剰に楽観的な判断をしてしまうリスクがある。


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水分・塩分補給のルール——「飲め」では法令を満たせない

水分補給の現場指示が「喉が渇いたら飲め」「適宜補給しろ」では、法令の求める水準に達していない。事業者には補給の機会を確保する義務があり、労働者任せにすることは安衛則第617条違反になりうる。

基準となる補給量と頻度

厚生労働省と日本スポーツ協会が示す目安は次のとおりだ。

「水だけ飲む」ことが危険な理由がある。大量の水分だけを補給すると、体内の塩分濃度が低下し、低ナトリウム血症(水中毒)を引き起こすリスクがある。また、体が過剰な水を尿として排出しようとするため、水分補給の意味が薄れてしまう。

現場で実行可能な仕組み

口頭指示だけでは機能しない。以下の「仕組み」まで落とし込むことが実務対策の核心だ。

食塩制限を受けている作業者(腎臓病・高血圧の一部)は、塩分過剰補給が危険な場合もある。主治医の指示に従った個別対応が必要で、一律のルールではカバーしきれない点を把握しておくこと。

緊急時の応急処置——重症度判定とドクターカー要請の判断基準

熱中症を疑ったとき、現場で最初に判断しなければならないのは「病院搬送が必要かどうか」だ。

重症度分類(日本救急医学会2024年ガイドライン準拠)

重症度主な症状現場対応
Ⅰ度(軽症)立ちくらみ・めまい・筋肉のこむら返り(熱けいれん)涼しい場所で安静・水分・塩分補給
Ⅱ度(中等症)頭痛・嘔気・嘔吐・倦怠感・判断力低下速やかに病院搬送(自力摂取困難なら即119番)
Ⅲ度(重症)意識障害・けいれん・高体温(40℃超)・多臓器不全119番即要請・到着まで全身冷却継続

(出典:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」)

「意識の確認」が最優先

重症度の判断で最初に確認すべきは意識だ。呼びかけに応答しない、または返答がおかしいと感じたら、Ⅱ度以上とみなして迷わず119番通報する。「少し休めば治るだろう」という判断が、III度への移行を招く。

119番要請前に開始する冷却処置

救急車を待つ間の冷却が生死を分けることがある。

  1. 涼しい場所(クーラーが効いた車内・仮設事務所)に移動させる
  2. 衣服を緩め、体の大血管部位(頸部・腋下・鼠径部)に氷や冷却パックを当てる
  3. 意識がある場合のみ経口補水液を少量ずつ飲ませる(意識障害がある場合は誤嚥リスクがあるため水分は与えない)
  4. 体温を測定し、40℃以上なら特に積極的に冷却する

救急搬送先の病院と連絡先は、夏季が始まる前に確認して現場の見やすい場所に掲示しておくことが、改正安衛則の「緊急連絡網整備」義務の要点でもある。

デジタル管理——センサー・アラート・ウェアラブルの活用

熱中症対策のデジタル化は急速に進んでいる。2025年の安衛則改正でWBGT管理の義務が明確化されたことを受け、IoTセンサーやウェアラブルデバイスを導入する現場が増えている。

IoT型WBGTセンサーの活用

固定式・無線型のWBGTセンサーを現場に複数設置し、クラウドでリアルタイム監視する仕組みが普及している。基準値(例:WBGT28℃)を超えると、管理者のスマートフォンにプッシュ通知が届く。担当者が常に現場に張り付かなくても、数値が閾値を超えた瞬間に対応できる体制が作れる。

ウェアラブルデバイスによる個人管理

着衣型センサーや腕時計型デバイスで、個別の心拍数・体表温度・活動量を継続的に計測する製品も登場している。集団管理では拾えない「特定の作業者が危険な状態」を早期検知できる点が強みだ。順化不足の新規入場者や既往症がある作業者への重点監視にも活用できる。

デジタル管理の導入ステップ

ステップ内容目安
1. 基準値設定現場ごとのWBGTしきい値と作業中止ルールを文書化5月中に完了
2. センサー設置作業エリアにWBGT計を1〜3台設置熱中症シーズン前
3. アラート設定基準値超過で管理者に通知センサー設置時
4. 記録保存測定値と対応記録をデジタルで保管(監督署調査に備える)運用開始と同時
5. 報告導線の整備現場の作業員が体調不良を報告できる仕組みを作る継続

デジタルツールを入れても、「現場の声が上がってこない」問題は残る。「頭が痛い」「気分が悪い」という初期症状を本人が申告しにくい雰囲気があると、センサーが正常値を示していても重大事故が起きる。匿名でも報告できる導線を確保しておくことが、デジタル管理の死角を補う。

よくある質問

Q. WBGTと気温の違いは何ですか?

WBGTは気温・湿度・日射・風速を組み合わせた指標であり、気温のみの計測では把握できない「体感の暑さ」を数値化したものである。たとえば気温30℃でも湿度90%の環境ではWBGTが28℃超になることがあり、同じ気温でも熱中症リスクが大きく異なる。現場管理は気温だけでなくWBGTを基準にすることが法令・ガイドラインで推奨されている。

Q. 2025年6月の安衛則改正で何が変わりましたか?

改正前は水分補給や休憩場所の確保といった「予防措置」が中心だったが、改正安衛則第612条の2により「早期発見体制の整備」「応急処置手順の作成と周知」「緊急連絡網の整備」が新たに義務付けられた。違反には6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が課される。「やっていれば良い」から「文書化・周知・体制整備まで完了していること」に要件が変わった点が実務上の大きな変化だ。

Q. 熱中症のⅡ度とⅢ度の見分け方を教えてください。

意識の状態が判断の基準になる。呼びかけに応答しない、返答がおかしい、けいれんがある、体温が40℃を超えているいずれかに当てはまればⅢ度(重症)とみなして即時119番通報と全身冷却を開始する。Ⅱ度は意識はあるが頭痛・嘔気・倦怠感が強い状態で、自分で水分が摂れなければ病院搬送が必要だ。現場では「意識がおかしい=Ⅲ度疑い」というシンプルな基準で行動することが重要である。

Q. 熱中症対策をデジタル化する際、最初に整備すべきことは?

ツールより先に「基準と手順の文書化」を行うことが優先だ。WBGTのしきい値、そのしきい値を超えたときの対応フロー、緊急連絡先をまず紙一枚で整理する。デジタルセンサーやウェアラブルはその基準を自動で監視・通知するための補助手段であり、基準が決まっていなければ何のデータが出ても対応できない。文書化→ルール周知→デジタル化の順序で進めると定着しやすい。

まとめ

熱中症対策を「口頭で水を飲ませる」レベルで止めている現場は、2025年改正安衛則のもとでは法令違反リスクを抱えることになった。整理すべき3点を再確認する。

  1. WBGTを計測し、しきい値ごとの対応を文書化する — 28℃未満・28〜31℃・31℃以上で取るべき行動を事前に決め、全員に周知する。センサーがない現場でも、手持ち測定器1台と記録用紙があれば始められる。

  2. 改正安衛則の3義務を満たす — 早期発見体制・応急処置手順・緊急連絡網の整備は文書として残すことが求められている。「やっている」ではなく「記録がある」状態を作る。

  3. 作業員の声が上がる仕組みを整える — センサーが正常でも、人が「言い出せない」状態なら重大事故は防げない。匿名報告や体調確認の声かけルーティンを組み込むことが最後の砦になる。

令和7年速報で1,681人が職場で熱中症に倒れた。今夏の対策は今からしか間に合わない。

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